元の家の屋根に葺かれていた青緑瓦を、カーポート屋根と、玄関の壁に再利用した。家族にとって「家に帰ってきた」と思えることを大事にした。
玄関ホールには、階段、兼本棚、兼ベンチ、兼空調機収納がある。上下の移動だけでなく、たくさんの物事が行き交う、複数の意味を持つ形。
居間を中心に、各所が緩やかに連続して、お互いの気配や外の風景を感じられる、抜けのある空間構成とした。食堂の窓辺には、昔から変わらない風景を楽しむためのベンチを設置。
旧家の玄関にあった飾り柱を、床の間の装飾として活用。曲がり木の形が楽しめるよう、輪切りにして埋込んだ。床柱は旧家のものを再利用。ウレタン塗装でツヤの強い姿だったため、表面を削ってマットな質感にして、新旧をなじませた。
2階は旧家の屋根裏部屋の雰囲気は残しつつ、1階と一体感のあるつくりとした。どこにいても、屋根に包まれていることを実感できる。
敷地の南から南東にかけては、穏やかな山裾の風景が広がっており、旧家では屋根上に出て見渡すことができた。その視点を屋根に穿たれた穴によって再現し、特等席のベンチや、腰掛けられる窓を設けた。
ちりばめられた居場所を統合するのはおおらかな切妻屋根。窓や建具、吹抜けによって、空気と光の流れが生まれ、気配の伝わる空間になっている。
HOUSE M「記憶の中に棲む」
敷地は福島県の山あいの、小川が流れる穏やかな場所にある。60台の夫婦が住み、毎週末に子供たちが帰ってくる家の建替えである。施主との対話を通して、これまで家族で暮らしてきた家やそこでの景色にとても愛着を持っていたことが分かった。そこで本設計では、それらの場面や風景の断片を、家のそこかしこに再構成することを考えた。
屋根に葺かれていた青緑瓦は、玄関の壁やカーポート屋根に再利用した。家族にとって「家に帰ってきた」と思える構えになることを目指した。またかつての屋根には下屋があり、その上がテラスのように使われていた。とても眺めの良い、子供たちのお気に入りの場所だった。新しい家ではシンプルな切妻屋根の中にぽっかりと穴を空けて、そこをテラスにした。1階の居間とも窓を介して繋がることで、立体的な居場所づくりができた。他にも慣れ親しんだ家事動線や、窓からの景色などの形の無いものから、玄関化粧柱の曲がり木を転用した床の間などの、素材を引き継いだものまで、さまざまな方法で、記憶の風景の続きとして、ここに紡いでいった。
住み手にとってこの家は新しい、けれどとても馴染みのいい存在になったのではないかと思う。
設計:小川錦織一級建築士事務所 / 小川泰輝 錦織真也
実施設計協力:小田和弘建築設計事務所 / 小田和弘
照明計画:大光電機 / 古澤皇枝
施工:創建舎 / 伊藤芳弘 相田明美
撮影:高橋菜生
House M
‘House as a continuation of memory’
This house is in a serene landscape in Iwaki city, Fukushima Prefecture, where a 60s couple lives and their children and their families come back on the weekend. Through the dialogue with them, we found they have a special feeling for their former house and the scenery there. Therefore, in this project, we thought about reconstructing the fragments of various scenes of the former house.
The blue-green tiled roof was their most favorite. That was reused for the entrance wall and carport roof. Scenery of terrace on the roof, time to relax on south veranda, view from the dining room window, line of flow for housework, etc. were also they had loved. We created a space by composing such material and immaterial things.
This house has become a new but very familiar place for residents.
Project credits:
Architects: Ogawa Nishikori Architects – Hiroki Ogawa, Maya Nishikori
Associated architect: Oda Kazuhiro Architecture Office – Kazuhiro Oda
Lighting design consultants: Kimie Furusawa (DAIKO)
Contractor: Soukensya – Yoshihiro Ito, Akemi Aita
Photography:Nao Takahashi